起業家コラム

お金を稼ぐとは?ボランティアとの違い

2024年2月8日

お金を稼ぐこととボランティアとではどのような違いがあるのでしょうか?報酬の発生の有無が基本であることについては誰しも理解しているところだと思います。 これ以外にも、その目的や動機、また、それぞれが社会に与える影響も大きな違いがありそうです。稼ぐことに焦点をあてつつ、改めてその違いについて考察してみましょう。

稼ぐこととは

使われる場面にもよりますが、「お金を稼ぐ」という言葉に品がないイメージを抱いてしまうことがあります。お金の話をすること自体にためらいを覚えてしまうこともあるのではないでしょうか。我々日本人がこのように感じてしまう理由の一つに、江戸時代より広く受け入れられた儒教の教えの名残があるという説があります。「利益の追求は道徳的に卑しい行為である」というものですが、確かに古い世代の人間にはさもしく見えてしまうお金の稼ぎ方もあります。

汗水流し働いて稼ぐことについては、誰もそこに卑しさや品のなさを感じることはありません。むしろ敬意を示すべき行為だと捉えられることが一般的でしょう。これは文字通り、肉体に負荷をかけて行う労働はもちろん、何かしらの「労」を掛けて物やサービスを供給する労働も、この「汗水流して」と評価されるものだと考えられます。創造的、知的作業などによって市場に価値を提供し、または、社会に有用とされるサービスを供給する現業職もこれに含まれるということです。

一方、いわゆる「濡れ手に粟」と言われるような、誰が見ても楽で怪しげな稼ぎ方には多くの方が眉をひそめることでしょう。労なく稼ぐそのスタイルにやっかみもありつつ、道徳的に受容し難いものがあります。甘言を弄した不義な勧誘で稼ぐ行為などは、そこに「いかがわしさ」も付加される感じです。まさに「卑しさ」や「品がない」と感じてしまうお金の稼ぎ方ではないでしょうか。

正当に稼ぐ行為であっても、この卑しさや品のなさを覚える感覚とは別のネガティブな感情を抱くことがあります。思いやりや慎み深さを美徳とする我々日本人特有の精神性からくるものだと想像しますが、この感情はときに妙な遠慮や配慮を生み、ビジネス上のお金のやりとりの場面ではバランスを欠いた判断をさせてしてしまうことがあります。

社会に与える影響

稼ぐこととボランティアの決定的な違いは報酬の発生の有無です。これを逆に考えてみますと、報酬を出す(出せる)人、団体、機関などの存在の有無と言えます。さらに角度を変えて考えますと、誰も収益化できない、または収益化しにくい、あるいは収益化すべきではない、主として公益を目的とする労務や、労務の集合体である事業がボランティアであると見ることができるでしょう。

一般的にビジネスは利益を生み出すこと(稼ぐこと)を主要な目的としています。
後述しますが、ドラッカーは、「利益は目的ではなく存続条件」としています。いずれにしましても、これらを前提としますと、商品やサービスを提供し、それに報酬を支払う人や団体があるものはビジネスとして成立するということであり、利益の追求を目的や条件とする経済活動であると言えるわけです。ボランティアとは違い、ビジネス上では商品やサービスに対してお金を支払う人や団体が確実に存在するということですね。市場ではその一般的な価格の基準も存在します。

ビジネスを行う者は市場での競争を余儀なくされます。その過程でイノベーションを起こし、雇用を創出し、税金各種を納めることなどで社会全体を活性化して経済の発展に貢献しています。ボランティアを主として公益を目的とする労務や事業としましたが、真っ当なビジネスを発展させる事業活動も、結局はその利益の一部を社会に還元しているのであり、ボランティア同様に公益に資する活動を行っていると言えるわけです。但し、事業活動の結果が、自然環境や格差の問題などで、社会に好ましからざる影響を及ぼしてきたことは負の側面として押さえておくべきことでしょう。

収益化できていた労務や事業そのものがボランティア化していくという場合もあります。
以前観たあるテレビ番組での話です。行政がある事業を外部に委託し、受託者は報酬を得てその事業を遂行していました。しかし、行政側の財政的な問題でその委託事業は打ち切りになります。その事業は地域に広く利益をもたらしていたのですが、打ち切り以降、地域住民はその恩恵を享受することができなくなるのです。これに地域住民は困惑するのですが、結局は地元の有志がその事業をボランティアで引き継ぎ継続させていくといった話です。

収益化できないボランティア行為であっても、たいていの場合は受益者が存在しています。当然ですが、ボランティアの場合は無報酬だからといって、決して「利益」を生んでいないわけではないのです。繰り返しになりますが、これを商品化、サービス化しないだけの話です。先の話で注目したいのは、ビジネスからボランティアへと移行した際の利益の質の変化です。その労務や事業が公にもたらす直接的な効果に差異は発生しましせんが、実際に労務を行う個人などの受益の性質には変化が生じます。その形、内容、利益の広がりの態様の違いなどです。

ビジネス活動の結果として得られる報酬は、それが例え電子マネーのようなデジタル貨幣に変わったとしても、物質的な利益として発生します。一部がタンス預金になる可能性は否定できませんが、その個人の利得は我が国の経済を回す原資となります。これがボランティアで行うこととなった以降、この物質的な利益は非物資的なものへと変換されます。より高い次元で自己肯定感や達成感などを満たしてくれる精神的な利益へと変化するのです。その活動は、個人、地域、さらには社会全体の活気を蘇らせる契機となり、人の繋がりで広がるネットワークは、地域や社会の連帯感を生みだす要素にもなります。

このように、稼ぐこととボランティアとでは、社会に与える影響が(それがほんの僅かな効果であっても)全く異なることがわかります。お金を出す人や団体が存在するビジネスは高次元の非物質的な利益を得がたく、ボランティアの場合は物質的な利益を得がたいという見方もできるでしょう。このことから、双方の関係は対立あるいは排他するものではなく、お互いを補完し合う関係であると言えるかもしれません。

サブスク的な事業の場合に無料の体験期間を設けたり、スキルのブラッシュアップを目的として戦略的に低価格サービスを行う場合があります。事業を始めたばかりの商い初心者の場合に特に多く見受けられることですが、こういった戦略によらず、スキルの安売りや、サービスなどの全部または一部をなぜか無償(または大幅値引き)で提供してしまうことがあります。とりあえずの顧客欲しさゆえの判断もあるでしょうが、提供物と頂く報酬が等価であるのか?という不安や自信のなさなどによる、おかしな遠慮からくる奇妙な配慮によるものだと想像されます。お客様の圧により仕方なくといった場合もあるかもしれませんが、正当に稼ぐことをネガティブに感じてしまう一つのケースでしょう。

少し極端な例になるかもしれませんが、会社というごく狭い社会に置き換えて考えてみます。
労働者がシステムやタイムカードに終了の打刻をした後にサービス残業を行うことがあります。休日に何か会社のイベントなどに無給で借り出されることもあったりもします。こんな場合シニカルに「ボランティアだよ」などと言ったりします。サービス残業については、労働そのものに給与が支払われるべきもの(収益化されるべきもの)であることに異論の余地はありません。イベント参加についても、それが例え間接的であっても、会社の経済活動の一環として催されるものであれば給与は支払われるべきものです。給与を支払うべき会社が明確に存在し、それが会社に物資的な利益を与えることに繋がるものであれば、それはボランティアなどでは全くないのです。

社会に求められる役割

社会に与える影響もさることながら、社会から求められる役割にも差異があります。
現代経営学の父と言われるドラッカーは、企業(ビジネス)の目的を「顧客の創造」と定義しています。
世の中が何を必要としているのかを理解し、これに応えるサービスなどを提供し続けること、また、既存の価値を超えて新しい価値を提供することの重要性がそこで示されています。実際、我々消費者(社会)は、技術やサービスの革新により様々な恩恵を受け、より生活を豊かにするため、さらなるイノベーションの創出を求め続けています。これに継続して応えていくのがビジネスの目的であると言うことですね。これに併せて、それぞれのビジネスのエリアにおいて社会に果たすべき役割や責任があるとも言っています。

先で言いましたが、ドラッカーは利益を「目的ではなく存続の条件である」としています。利益はビジネスを健全に継続発展させていくために欠かせないもの、つまり、当然になければならないものであると言うことです。そのビジネスがいかに社会に有用とされているかを知る尺度になりますし、事業を持続させていくために絶対に必要な原資なのです。ビジネスの存続なくして目的の達成はあり得ず、ビジネスが消滅すれば公益に資する活動も継続できません。利益を生むことに妙な遠慮や配慮が入る余地がそこにあるでしょうか。稼ぐことを躊躇う余裕などないはずです。

ボランティア活動を行う方は利他の心を基本として活動されていると思います。ビジネスを行う者が有すべき矜恃とは何でしょうか?社会に与える影響と、その目的や活動の違いから求められる使命や責任の内容も相違しますが、それぞれの立場で持つべき、誇り、自尊心、使命感、そして倫理観などに基づいて行動すること。現代の我々日本人が持つべき美徳の本質(正当性)はそこにあるのではないでしょうか。

まとめ

稼ぐこととボランティアでは、報酬の発生有無以外にも大きな違いがあることがお分かりいただけたでしょうか。皆さんがビジネスを行う者の立場として、「稼ぐこととボランティアの違い」について、さらに理解が深まる契機となりますと幸いです。

この記事を書いた人

たみお
行政書士・社会保険労務士。士業事務所を営む傍ら人事労務コンサルタント会社を運営。人材マネジメントを得意とする。

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