起業家コラム

目指せダブルワーク(Wワークのススメ)

2024年1月19日

昨今の働き方の多様化に伴い、ダブルワーク(Wワーク)を行う方が最近増えてきています。 Wワークを行うメリットは様々ありますが、注意しなければならない点もいくつかあります。改めて本記事で確認してみましょう。

ダブルワークとは

兼業、デュアルワーク、パラレルワーク、副業など、複数の仕事をこなす場合において色んな言い回しがされますが、その目的や就労の態様によって使い分けされます。

厳密に言いますと、例えば、兼業や副業などは、「業を兼ねる」、「副の業」ということですので、自ら事業を行う場合に使用されるというのが一般的です。一つの会社では雇用契約を締結し、もう一つの会社とは請負契約で業務を受託といったように、複数の契約形態が混在するケースもあり得えるわけです。そういった場合、税法、労働法、会社法上など注意すべき点が発生する可能性があるため、明確に分けて考えなければならない場合もあります。しかし、本記事の本旨は2つ以上の仕事を持つことの意義や効果などをご紹介することのみを目的としていますので、ここでは2つ以上の仕事を持つことを全てWワークと定義してお話いたします。

会社で正社員として働きながら別の会社でパート勤務をする。一方ではパートで働き他方ではアルバイトとして勤務する。会社員でありながら個人事業を行っている。法人の社長が個人事業を行っているなど、そのあり方は様々です。ちなみにですが、パートとアルバイトの違いについては実は些末なことであって、その方の属性や働き方の違いによってその呼称が使い分けされているだけのことです。もちろん法律上の定義がされているわけではありません。

私自身も現在Wワークを行っています。本業は個人事業主ですが、その傍ら会社を経営しています。本業を個人事業主としているところに違和感を覚える方もいるかもしれませんが、これは個人事業として行う事業が私の主な収入源になっているためです。一般的なイメージとしては法人の方が規模は大きく売り上げも多いのでは?と思われるでしょうが、私のようなケースも珍しくないと思います。ちなみに、年末調整の書類などで「主たる」や「従たる」という文言を目にすることがあると思います。これは、メインの収入となるものが「主たる」で(正確には扶養控除等申告書を提出している方の会社)、従たるはパートなど副収入を得る場合のことを意味します。

ダブルワークを行う目的

ダブルワークを行う方の目的は様々です。以下それぞれ見ていきましょう。

1.経済的な事情

このケースが一番多いのではないでしょうか。その目的は明確でお金を稼ぐことです。今般のコロナ禍においてこれを理由にWワークを始める方が一気に増えた印象があります。生活費の補填、各種生活イベントの資金作り、趣味のためなど、その理由は様々です。得てして長時間労働になりやすいのがこのタイプの特徴です。

2.起業(フリーランスとしての活動含む)

会社員でありながら個人事業を営む方も増えてきています。会社員として経済的な安定を確保できている間、とりあえず小さくビジネスを始めてみるといった方法をとられる方もいます。起業のリスクを減ずるには非常に有効な方法だと言えます。事業を始めるとまではいかないでも、ご自身の特技や技能を活かしたサービスの提供、アフリエイトやyoutubeなどのオンラインビジネスを行うフリーランスとしての活動も、広義の意味での起業にあたるでしょうか。

3.キャリア・スキルの獲得

本業では獲得することができないキャリアやスキルを、別の業種業界に関わることで得たいというパターンです。資格を取得したのだが、その実務経験がないため関係する業界で経験を積みたい方。将来の起業に向けて実務能力を高めたい方。自身のキャリアアップのためのスキルの取得などを目的とするのがこのタイプです。ワンちゃんの飼育を希望する方がペットショップで働いてみたという例などもあります。お金を払ってスキルを習得するのではなく、お金をいただきながらスキルを身につけようという発想は実にスマートですね。

4.お試し入社

興味がある仕事や業界があるのだが、いきなり飛び込んでいくのは怖いという方が、とりあえず少し覗いてみようとお試しで入社するというケースです。入社時に試用期間というもの設けられることが一般的ではありますが、逆に、雇用される側から期限付きで試しに使われてみるといったイメージでしょうか。楽しそうな業界だと思って入社したものの、実際は自分が思っていたのと違ったといったこともよくある話です。雇用のミスマッチ対策を、会社側ではなく雇われる側の方から行ってみるという攻めの戦略は、起業家の発想と言えるのではないでしょうか。


5.可処分時間の有効活用

これを理由にWワークをしている方もおられるかもしれません。大企業を中心に週休3日制の導入に踏み切る企業が現れ始めています。知識集約型産業を中心に今後週休3日制を導入する企業がどんどん増えると予想されます。週休3日制となりますと、通常労働日の仕事のボリュームが増えるものの、出社しなくていい日(労働免除日)は確実に増えますので、これを有効に活用しない手はありません。特に目的なくなんとなく休日を過ごしておられる方にはオススメかもしれません。

ダブルワークのススメ

Wワークを選択される方が今後益々増えてくることでしょう。
厚労省からは「副業・兼業の促進に関するガイドライン」なるものも発表(H30年1月策定・R2年9月改定)され、これに基づき政府も働き方改革で兼業・副業を推進しています。これに呼応して、Wワークを明確に認める会社が昨今増えてきた印象があります。個人のスキルアップは会社にも利益ありという理由でむしろ推進する会社もあるようです。労働者の意識も変化してきており、副業が禁止されている就業規則や社内規定の見直しを求める声も実際に出てきています。

その目的にもよりますが、Wワークは高いリターンが見込める自己投資の一つと言っていいでしょう。
未知の業界に入ってみるということは、それだけ知識や経験の引き出しを増やすことになります。また、新たな人との出会いによって、これまで遭遇することがなかった観念にも触れることもでき、自分の将来の可能性をより大きく広げるための契機にもなります。「ワーク」という言葉は「労働」を意味しますが、Wワークの場合は「学び」の要素もあるのです。

ダブルワークの注意点

Wワークを行う際の注意点をいくつか挙げてみます。以下はWワーク先の会社どちらも雇用契約を締結している場合の注意点になります。(一方が請負契約の場合はこれとは別の注意点が発生します)

1.所得税について

会社と労働契約結んで給与所得が発生しますと、会社はその所得に対して所得税を控除(天引き)して個人に代わって国に支払うことがルールとなっています。2つ以上の会社で給与所得者として働く場合は、そのどちらの会社でも同じように所得税が差し引かれることになります。通常はどなたにおいても入社時に「扶養控除等申告書」を提出するよう求められます。この扶養控除等申告書ですが、実は重要な役割があって、提出の有無によって控除される所得税額が変わってくるのです。(提出した先の会社では安い税率での所得税計算となる)

Wワークを行う場合の注意点がここで一つあり、この扶養控除等申告書を提出できる会社は一つだけと決まっています。つまり、後から就職した副業先では、扶養控除等申告書の提出をも求められても提出はできないということになります。そもそも副業先の会社でWワークの認識があれば提出を求めることはないのですが、小さな会社だと普通にあり得ることなので、その場合は本業で提出済みの旨を伝えましょう。副業先ではその書面の提出ができないとなると所得税は高い税率での計算になります。そうすると所得税を余計に負担しなければならない?との誤解も生まれそうですが、翌年の確定申告できちんと処理を行えば過払いの所得税は還付されますので損得はありません。(副業での給与所得が20万を超える場合は確定申告が必要です)

2.内緒の副業はバレてしまう?

内緒でWワークをした場合にこれが本業側の会社にバレるのか?の問題です。
決定される住民税の額でバレてしまう可能性があるというのをよく聞きますが、住民税は、前年の所得に基づきその額が決定されることは皆さんご存じだと思います。毎年5月頃市役所から決定通知書が会社に送られ、6月から1年間に渡り住民税が控除される仕組みです。通常は給与計算事務者がこれを確認するのですが、その確認者が個々の額を細かくチェックするなど普通はしません。大抵は決定された年間(月々)の住民税の額の確認、配布、入力に終わります。

3.兼業の禁止について

Wワークを就業規則で禁止している会社も少なくありません。あるいはそもそも就業規則がない、就業規則の内容に関連する規定がない場合はどのように考えればいいのかを検討してみます。

先にお示ししました厚労省のガイドラインによりますと、「副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業 を認める方向で検討することが求められる。」とされており、法律上でも副業を禁止する規定はありません。(公務員は例外)

では、副業を就業規則で禁止している会社があるけど、禁止されることに法的な根拠はないのでは?と思われるかもしれませんが、上記ガイドラインの下線部を見てわかるように、「業務に支障をもたらす~精査~事情がなければ」と記載されていますので、支障をもたらす事情があれば禁止やむなしとなります。

当然と言えば当然ですね。Wワークを認めたはいいが、副業で睡眠時間を削るほど働いて本業の勤務時間中に居眠りをされたのでは本業側はたまったものではありません。それが運転業務であって事故など起こされた場合には、本業側の会社の使用者責任も問われることになります。このように分かりやすい事例だけではなく、道義的な部分においても思慮すべき事項はあります。

例えば、お子様やご老人などをお預かりする仕事をされている方がアルコールも提供する不特定多数の来店者がある飲食店(接待を伴わないものでも)で副業をするとします。労働時間がごく短時間であれば、本業の通常業務に支障をきたす要素は一見なさそうに思いますが、就労の時期がインフルエンザの流行期だとするとどうでしょうか?仮に私たちがその方に子供などを預けている家族だったとき、どのような感情を持つでしょう。子供などに直接的な危険を与えるものではないですが、あらぬリスクを与えられてしまうことになりますし、それを許す会社に不信感を抱くはずです。

従業員のWワークを認めることは、会社にとってはリスクがあるということを従業員側も十分理解をしておくべきです。

上記を全て踏まえた上で、仮に就業規則で副業が禁止(規定がない場合も同じ)されていたとしましても、あらゆる可能性をご自身で検討され、どのような角度からも見ても、本業に一切影響を与えることはないとご自身で疎明できるのであれば、会社側にお願いをする価値(権利)はあります。場合によっては、会社に利益を還元できる働き方もあるかも知れません。理詰めで会社に要求する態度は思わぬ摩擦を生むことになるので注意が必要ですが、お願いベースのスタンスで上手く話し合ってみましょう。

まとめ

差し迫った必要性がある方でしたら躊躇なくWワークを選択されると思います。
やってみようかな?と思案されている方、問題なく行える環境であるようなら一歩踏み出してみましょう。
人手不足の折、ほんの短時間でも歓迎という職場も多いです。パートの場合は通常契約期間が定められる期間雇用となりますので、嫌ならその満了を持って雇用契約を終了すればいいのです。とりあえず行動!これが肝要です。

この記事を書いた人

たみお
行政書士・社会保険労務士。士業事務所を営む傍ら人事労務コンサルタント会社を運営。人材マネジメントを得意とする。

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