起業家コラム

40代からの資格取得と起業

2024年1月8日

資格取得はセカンドキャリア形成のための有力な手段の一つです。 また、資格取得により起業を目指せるものもあり、人生を大きく転換させるきっかけになることがあります。 本記事では、セカンドキャリアをより強く意識することになる40代以降の方の資格取得と起業について考えてみます。

資格取得で食べていけるのか?

日本政策金融公庫の「2022年度新規開業実態調査」によりますと、起業開始年齢のボリュームゾーンは40代で、その構成比は35.3%となっています。50代についても19.3%となっており、40代~50代がその55%近くを占めています。年齢を高くして起業されている方が多いことに少し驚きますが、これが実態のようです。

開業時の事業を選んだ理由について同調査では、「これまでの経験や技能を生かせるから」が44%と最も高く、「身につけた資格や知識を生かせるから」が19.1%と続きます。保有する資格で起業される方が一定数いることが分かります。

資格を持って事業を行うこと自体は簡単です。資格そのものでの起業となりますと、個人事業主としてスタートする方が大半だと思われますが、その場合は「開業届」などの書類を税務署に提出するだけで形上は事業開始となるわけです。

問題は事業を開始したその後です。
資格を活かした事業を生業として「食べていけるのか?」です。ここが皆さんの最も気になるところではないでしょうか。

私は、士業事務所を営む傍ら人事労務コンサルタント会社を運営していますが、
40代後半で複数の資格を取得して50歳で起業しました。本来は、「資格で開業」という表現が適切ではありますが、私は「開業」という考えはとらず、「起業」というイメージで事業を始めました。
59歳になった現在も、問題なく事業運営を続けていくことができています。収入も会社員時代に比べますと2倍以上にも増えています。全くの未経験でのスタートですが、ここまでは順調に事業を発展継続できています。

資格で食べていけるのか?についての私の回答は、「人による」です。こう言ってしまっては身も蓋もないのですが、そのようなあやふやな回答しかできないのが正直なところです。

資格予備校の宣伝案内などを見ると「独立開業可能な有望資格」など心地良いフレーズが我々をその気にさせてくれます。他方、Web上では「食べて行けない資格」などと、その資格自体を揶揄するような声も散見され混乱しますが、それらは発信者それぞれの立場で発せられる「つぶやき」程度のものに過ぎないと個人的は感じています。

個人のパーソナリティーは多様で資格も様々です。十把一絡げには語れないものの、資格取得での起業で成功を掴んでいる方の特徴として私が感じるものはいくつかあります。成功の可能性を高める行動を何に関しても行っていること、起業家としてのマインドを持って事業を行っていることなどです。

私は、行政書士、社労士という資格を保有して士業を行っていますが、この資格を持っているから食べて行けるという印象は持っていません。保有資格うまく活かしているだけのことです。お客様は私が何の資格を持っているのか?についてはほとんど興味を示しません。お客様の関心の大半は、「貴方は我々に一体どんな利益を与えてくれるのか?」・・・にあります。

とは言いましても、資格自体に意味がないということでは当然ありません。国家資格の多くは「独占業務」を有していて、この資格がないと行えない業務が数多くあります。

独占業務はお客様へのアプローチの手段としては非常に有効であり、これを活用しない手はありません。例えば、宅建士は「重要事項の説明」という独占業務を持っています。また、宅建業者は一定数の有資格者を事業所などに設置する義務があり、ハローワークのインターネット求人検索を見ても通年で安定した求人があるようです。未経験での独立開業は難しいとは思いますが、短期間で比較的容易に取得が望めるコスパの高い国家資格の一つであると言えるでしょう。

その他の各資格の特徴などはここでは割愛しますが、ご自身が興味を持てる資格をそれぞれで調べてみてください。氾濫する情報の中から必要なものだけを取得し、それを適切に精査することに全力を傾注してみましょう。「質が高い情報を得る」ことは、この先資格で起業を考える方にとっては非常に重要な作業になります。

実務経験がない資格での起業となると、能力不足などで壁に突き当たる場面がしばしばやってきます。座学では学べないことが余りにも多いのです。当たり前のことですが、経験不足などを低パフォーマンスの理由にすることなどできません。あらゆる角度から、いろんな方法を用いて必要な情報を手に入れます。その情報の質は高くなければなりません。WEB上でその回答が簡単に拾えるものでも、その根拠から徹底的に調べます。

目指すべき資格は?

それでは、どんな資格を目指せばいいのか?資格選びについて考えてみましょう。
選定にあたっての重要なことの一つは、その資格の取得自体が皆さんにとって現実的なものであるのかということです。特に中高年の方は5年掛ければ自分でも取得できるかも?というレベルの資格は避けるべきです。(若い方でしたら長期計画で難関資格取得を考えてみるのはアリです)難易度が高い国家資格であっても、掛けた時間分のリターンが約束されるわけではありません。

これは私の経験です。資格勉強を行っていますと、言いようのない不安に駆られることに併せ、同時に妙な安心感を覚えてしまうこともありました。自分は頑張っているのだ、目標に向かって前向きに努力いるのだという、何の生産性もない自己満足を得ていたのです。この自己満足はときに厳しい現実から目を背けさせ、正常な判断力を奪います。私はリミットを3年に設定しました。固執すると沼に入り込んでしまうタイプであることを自覚していたからです。もしもの時の別のオプションを用意しておいたのは言うまでもありません。

改めてご自身が今(これから)出来ることを考えてみてください。資格取得のために投入できる時間、期間、費用はどの程度でしょうか?また資格取得に向けてどこまでの努力ができると考えますか?過大評価することは勿論、過小評価をしてもいけません。それを踏まえた上で、頑張れば手が届きそうな範囲の資格の中で、最も難易度が高いであろう資格を選ぶのです。確実を求める余り、難易度の低い資格を安易に選ぶことはオススメできません。(別オプションとして検討しておくのは可)
最大限の努力を払えば合格を手に入れることができるクラスの資格を選ぶことは、今後その資格を活かして仕事を行っていく上で非常に重要です。難易度が高い資格の方が一般的には希少性も高いと思われます。これは将来仕事を得る機会をより多く確保するための要素の一つとなります。また、ご自身の成功体験は、後々の専門家としての職業人生に好影響を与えてくれます。誤解を与えてはなりませんので申し上げておきますが、その希少性はより多くのチャンス得られる可能性を高めてくれるものに過ぎず、食べて行けるパスポートにはなるものではありません。

ちなみにですが、合格率と難易度は比例しません。資格試験によって受験生の質は様々ですので、当然と言えば当然ですね。私が合格した年のある国家資格の合格は5.4%でしたが、体感としてはその合格率が示すほど高難度の資格だとは全く感じませんでした。決して地頭が良いわけではありません。(学生時代はいつも中の下程度の成績)記憶力も他人に比べて劣っています。適切な戦略に基づいて、正しい学習を地道に行った結果でしょう。自分に合った学習方法を見つけ出し、それを愚直に継続していくことが基本となります。一定程度のレベルの資格であればそれで結果は必ず出せます。他人の合格体験や意見を鵜呑みにしてはいけません。

資格の選定にあたって、その資格についてこれまでの経験が生かせるか?ご自身の性格に合っているか?実務経験なしで大丈夫か?などですが、ご自身の直感を持って、やってみたいと思われる資格にチャレンジしてみることで全く問題ないと考えます。

資格を取得して仕事をすること

首尾良く合格できた後、資格によっては一定の手続きや研修の後にすぐに開業できるものもあります。私は合格した後、会社員のままの状態で事務所を開きました。このとき、この資格で開業するという考えではなく、あくまでも起業するのだとイメージで事務所を立ち上げました。「世の中に新しい価値を提供する」というたいそうな目標を掲げましたが、その当初のマインドセットが功を奏し現状に至っているのだと思います。

繰り返しになりますが、資格そのもので食べて行けるわけではありません。資格を取得することよりも、起業後に継続して食べて行けるだけの仕事の確保をすることの方が断然難しいというのが私の感想です。

士業が手がける各種手続き業務などは、IT技術の発展によりいたって簡便化され、専門的な知識がほとんど不要な状態になる時代がやってきつつあります。定型業務だけを考えれば、スケールメリットを生かせる大規模事務所が今後益々強くなっていくのでしょう。

全くの未経験者であった私は起業当初はかなり苦労しました。年齢なりの苦労も多かったです。しかし、私の行う業務では年齢ならではの強みも確かに存在しています。被用者としての多くの経験が非常に役に立っています。現場の実を知っているというところでしょうか。実務では杓子定規な対応では解決できない問題も少なくありません。お客様が求める回答もWeb検索で簡単に拾える一般的なものでもありません。この年齢で、経験を経てきたからこその成果を出せることも少なくないです。経験と言いましても、会社員時代の職位や地位などは何の役に立ちませんし、お客様がそれに敬意を払ってくれることなどあり得ません。

顧客の関心は「どんな利益を与えてくれるのか?」

お客様の関心は、「どんな利益を与えてくれるのか?」にあると先に言いましたが、これを満足させるためには、お客様が求める利益の「真」は何であるのかを適切にキャッチしなければなりません。洞察力が非常に重要になってくるわけです。この洞察力は経験によって養われるところが大きいと考えています。我々専門家と言われる人種は、ともすれば自分の得意を押しつけがちですが、お客様の本意を見抜く力がなければ成功は遠いものとなります。

好きな仕事なのか?と問われれば返答に窮しますが、やり甲斐はあります。好きなことを仕事にしたいとお考えをお持ちであれば、それは甘い幻想としてひとまず忘れましょう。実務を行っていれば辛い思いをすることも多々ありますが、お客様からいただく感謝の言葉は専門家としての自分を新たなステージに導いてくれます。

食べていけるだけの仕事を親切な誰かが供給してくれことなどあり得ません。資格の保有のみで僥倖が訪れることもほぼないです。起業の発想を持って、世の中に新しい価値を供給、提案していくのだという気概を持つことが必要です。これから資格学習を始める方は、起業を成功させるためにはそういった視点も持って学習を進めていくことをアドバイスとして追加させてください。

まとめ

資格取得による独立は、設備投資が非常に安価で済みます。在庫は不要で継続収入も見込め、虎の子の老後資金を削ってしまうリスクも少ないです。現状維持は皆さんにとって後退を意味することかもしれません。年齢を重ねる毎に1年の重みが増してくることを念頭に入れつつ、起業のための手段としての資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

たみお
行政書士・社会保険労務士。士業事務所を営む傍ら人事労務コンサルタント会社を運営。人材マネジメントを得意とする。

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