起業家インタビュー

パティシエ経験ゼロから「ヴィーガンスイーツ専門店」を起業。CocoChouChou飯田紗央里さん

2024年4月3日

ヴィーガン&グルテンフリースイーツを知っていますか? 牛乳、卵、バター、そして小麦粉、白砂糖を使わない、徹底したベジタリアン志向のお菓子のお店CocoChouChou(ココシュシュ)。長野在住の飯田紗央里さんが生み出すお菓子はSNS映えする美しいヴィジュアルと、きちんと「おいしい」のが魅力。その実力は、地方都市に拠点を置くお店にも関わらず、全国の大手デパートへの出店履歴や多数のメディアで得た高評価からも伺える。

IT企業勤務からの転身

子どもの頃から家族の誕生日にケーキを作ったり友だちに焼き菓子をプレゼントするほど、お菓子作りが得意だった。しかし、調理やお菓子の専門学校には進学せず、大学で日本文学を学び、卒業後はIT企業へ就職。仕事にはやりがいを見いだせていたものの、業務に忙殺され続ける日々に疑問を持つようになり「1度、キャリアを見直さなければ」と考えるようになる。

「食に関わる仕事を一生の仕事にしたい」とは思っていたが、当時は趣味でお菓子を作り続けてはいたものの、実績は無いまま。当時を振り返って飯田さんは語る。「退職後、なんとか未経験でも食の仕事に結びつけるため、メディア関係者も多かった元の勤務先に足繁く通ってお菓子を届けていました。実績がない自分が食の世界に参入するひとつの手段と考えてのことです。」そして後にこの行動が功を奏することになる。

ある時「フリーランスとしてカフェの商品開発をしない?」という話が舞い込んだ。
早速、商品開発を進めるためのマーケティング調査中に出会ったのが、食物アレルギーに悩む人や宗教上、健康上の理由で動物性食品を食べられない人たちの声。
加えて世間の健康志向が高まったことで、ヴィーガンやグルテンフリーが注目されるタイミングでもあり「誰もが美味しく食べられるお菓子を作りたい」との思いから、ヴィーガンスイーツの開発をスタート。「時代の潮流を読み、コンテンツを絞ることも起業には大切なこと。」と語る。その後、2017年個人事業主として開業、2019年には法人化に至った。

パティシエ経験ゼロからのスタート

飯田さんは学生時代に パティスリーでのアルバイトを経験したが、厳しい業界の気質や体力面の負担から菓子業界への就職を選択しなかった。
当時、垣間見た菓子業界は、俗人的が故に長時間に及ぶ労働が常態化し、加えて「見て覚える」といった非マニュアルなシステムが主流で、技術を習得するまでに相当な時間を要した。
そのような業界の気質に疑問をもった経験が、現在のCoco ChouChouの生産を支える「技術を平準化して、未経験でもお菓子作りに関われる仕組み」を構築する基礎になったと言う。

パティシエ経験が無いことはマイナスでは無い。むしろ業界の既成概念にとらわれることなく、自由な発想で生産方法に独自の方向性を見出し、強みに変換している。もちろんお菓子のレシピにも存分にその個性が発揮され、「幅広いジャンルのお菓子を子どものころから長く作り続けてきたので、たくさんのレシピを試して知識を増やしてきました。今ではヨーロッパの国々の伝統的なお菓子、好きなパティシエの作品のエッセンスをヴィーガン&グルテンフリーの知識を盛り込んで作っています。」と胸を張る。
お菓子の多様性を独学してきた飯田さんのクリエイターとしての思いが、ヴィーガン&グルテンフリーという厳しい制限によって刺激され、レアな専門店の開業へと繋がった。

個人がチームとなった今

「経営していると次から次へと課題が生まれます。業績に対する重圧、資金繰り、現在では起業時にはいなかった従業員も採用したので、そちらへの責任も発生しました。正直苦しいことも多く、心が休まる時間はほとんどありません。そんな中でもお客様の励ましのお言葉に感動して疲れが吹き飛ぶ瞬間も…。開業当初は、組織の上に立つということが苦手でしたが、今は従業員に恵まれたおかげで、チームで目標を達成する喜びを感じ、感謝の気持ちでいっぱいです。」

CocoChouChouの未来

今後の抱負は?と聞くと「より多くの人に、美味しい選択肢として商品を届けたいと思っています。当たり前に身近に手に取っていただけるために、品質にこだわりながらもやはり規模の拡大も目指したいです。」と胸を張る。
その言葉の根底には、宗教上、動物性の素材を口にすることができない人たちやアレルギーを持つ人たちへの深い思いやりがある。

そしてさらにCocoChouChouの個性として「未経験・地方・働き方の多様性」を挙げた。地方だからできること、職人ではなく未経験の地元長野の女性たちだからこそ可能なチャレンジや発想を強みとし、子育て中や介護中でも働けるよう、業務を属人化せず、急な欠勤や短時間勤務にも対応している。また副業人材も採用するなど、枠にとらわれない組織作りを目指している、とのこと。

「人生100年時代、さまざまな人生の岐路に立っても、キャリアを諦めずチャレンジ出来る環境を整えて、生きがいのある日々を過ごしてもらえたら…と思うんです。」

起業を目指す人へ

「大変なことは多いですね。どこまでもしぶとく前向きに努力する粘り強さは必要です。最初のプラン通りにはいかないことも多いので、走りながら考え、行動できることが大切だと痛感しています。」
シンプルなメッセージの中には「起業を目標にしてきたわけじゃない」という目線を強く感じる。先生や師匠に「正解を教えられて」身に着いた技術ではなく、自身の味覚の確かさと家族や友だち、そしてお客さまの「おいしい!」という声を原動力にお菓子と向き合ってきた飯田さんならではの自信と覚悟が垣間見える。

お客さまの声

「アレルギーのある子どもが初めてチョコレートを食べることができました!」
「ヴィーガンなので、今まで食べられるお菓子が少なかった。出会えてよかった。」
「お菓子を食べると罪悪感を感じてしまうが、おいしく食べられてうれしい。」
「こんなにおいしいチョコレートは初めて!」
「普通のスイーツと比べても抜群のおいしさ!ついつい注文してしまいます!(筆者)」

【株式会社 CocoChouChou(ココシュシュ)】
●2017年個人事業主として開業、2019年に法人化
●長野県長野市北石堂町1211-1 グランドハイツ21
●オンラインストア https://cocochouchou-netshop.com/

この記事を書いた人

みやむらけいこ
サーフィン・チョコレート・歌舞伎・ひとり旅・パンダが好きなライター・インタビュアー

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