起業を志すのはどんな時でしょうか。「商売につながりそうなアイデアが浮かんだ」「誰も取り組んでいないビジネスモデルを思いついた」など、様々なものが挙げられるかと思います。
起業当初は、その想いに支えられて行動を進めていくことができるかもしれませんが、やはりビジネスに問題はつきもの。
毎日忙しく働いてはいるけれど、何だか前に進んでいる気がしない。次から次へと問題が押し寄せ、心が押しつぶされそうになることもあるでしょう。
そんな時、初心に立ち返らせてくれるもの、それが1つめのビジョン・ミッション・バリューです。それぞれの頭文字をとって、MVVと呼ばれたりもします。
これら3つの項目をきちんと明確化、明文化しておくことで、何か困難に直面した場合でも、軌道修正をしながら事業を継続していくことができます。
では、それぞれどのような意味・役割があるのでしょうか。順番に見ていきましょう。
ビジョンは「見ること」という元々の意味から派生して、将来の見通しやありたい将来像といった、長期的な目標・イメージを示します。自分の事業の目的は何か、数年後、数十年後にどのような姿であることを目指しているかなど、達成したい状態を具体的にイメージすることが重要です。
夢を膨らませるような感覚で、これから実現したい将来像をイメージしてみましょう。
ミッションは「使命、任務」という元々の意味から派生して、やるべきことや社会での役割、存在意義などを示します。ビジョンが自らの思いを具現化する一方で、ミッションは世の中から何を求められているのかという意味合いが強いです。
また、ミッションとビジョンは、時間軸が異なることも特徴で、ミッションは現在何が求められているのかを示している一方、ビジョンは将来的に何を目指すのかを示しています。
世の中の流れを掴み、社会が起業家に対して求めていることを捉える必要があります。
バリューは「価値」という元々の意味そのままに、顧客に対してどのような価値を提供できるかを示します。自身の考える製品・サービスで社会にどう貢献できるのか、どう社会を良くしていきたいのかについて考えていく必要があります。
ここまでビジョン、ミッション、バリューについて簡単に触れてきましたが、それぞれは独立した考えではなく、うまく組み合わせることで大きな力を発揮します。
課せられたミッションを抱き、事業を遂行する過程で社会へバリューを提供しながら、組織としてのビジョン実現を目指す。企業の成長が社会の成長に直結する、そんなWIN-WINな関係を実現できるようなMVVを立てることが大切です。
2つめは、起業家マインドです。1つめが組織としてどうあるべきか、という視点に立った考え方であるのに対して、起業家マインドは個人がどうあるべきか、という部分に着目しています。
ここではさらに、4つの項目に分けてご紹介していきます。
ここ十数年、IT技術の急速な発達により、世の中の常識が大きく様変わりしました。その傾向は今後も継続していくと考えられるため、変化を受け入れて柔軟に対応していくことが求められます。
そのためには、下記に示すような点に着目すると良いでしょう。
・目の前の状態にとらわれず、物事を俯瞰して見る
・様々な出来事に対して、肯定的に捉えてみる
・過去の結果にとらわれず、より良い方法はないか疑問を持つ
常に変化を続けているこの時代、情報の更新を欠かさず、新しい事へ挑戦する姿勢が重要です。ある時突然、新しいアイデアがひらめくことはなかなかありません。周囲にアンテナを張り続けることで、ひらめきが生まれます。加えて、小さなことでもすぐに行動する力を身に付けることで、困難に挑戦する時のハードルが小さく感じられるようになるでしょう。
創造性やチャレンジ精神を高めるためには、下記に示すような点に着目すると良いでしょう。
・物事に対する興味関心を持つ
・インプットで得た知識はすぐにアウトプット(実践)する
・実践から得られた経験を反省し、次のアクションに活かす
経営者として大変有名な、パナソニック創業者の松下幸之助さんがこのような言葉を遺しました。「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければそれは成功になる。」
この世の中、成功が約束されているものは何一つありません。加えて、いつ成功できるかも分かりません。一年で結果が出るかもしれませんし、数年、十数年と時間がかかる可能性すらあります。
心が折れそうになった時、自らが立てたビジョン・ミッションを思い返し、初心に帰って焦らずコツコツと積み上げていくこと。そのような姿勢も重要です。
約束というと、相手がいるものを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。仕事を進める上では、時間(納期)を守ることや、品質を守ること、コストを守ることなど様々な約束があります。
もちろん他人との約束も大切です。しかし、それ以上に大切なのが、自分に対する約束を守ることです。言い換えれば、自分で決めたことはきちんと実行すること。
どんな小さな約束でも同じです。この約束を守り続けることで、自分に対する信頼=自信が蓄積されていきます。その結果、何か新しいことへ挑戦する場合、困難を乗り越えていくための大きなエネルギーになるのです。
自分でも他人でも、信頼できる人というのは、たとえどんな小さな約束であってもきちんと守ってくれる人ではないでしょうか。
皆さんもぜひ、心がけてみてください。
3つめは、資金計画です。給与所得のみで生計を立てている社会人で、かつ起業への関心があると回答した2,356人に対してアンケートを取ったところ、「10年以内までに起業する」と答えたのは全体の15%でした。
一方、「起業したいという考えはあるが時期は未定」「あるいは起業するかどうかもまだ分からない」と答えたのは77%に上りました。これより、起業自体に関心はあるものの、実際に起業するかどうかについては決められていないという結果になりました。
(2022年度 起業と起業意識に関する調査/日本政策金融公庫総合研究所)
その理由を尋ねると、「自己資金が不足している」が51%、「十分な収入が得られそうにない」が21%と、資金面での不安を挙げる人が多いことが明らかになりました。なぜ、このように資金の不足や不安を挙げる人が多いのでしょうか。
人は、分からないもの、漠然としたものに不安を覚えます。
資金が不足しているのであれば、どれぐらいの資金があれば十分なのか。十分な収入が得られそうにないのであれば、どれだけの収入を得ることができれば十分と言えるのか。それが分からないからこそ、不安を覚えるのだと思います。
この不安を払拭するためには、具体化することが必要です。数値を使って明確にいくら必要だと示すことができれば、「これだけ準備できたら大丈夫だろう」と思えるようになり、不安は無くなります。
このようにお金に関する目標を具体化したものが、資金計画です。そして、具体的な資金計画を立案するためには、綿密な事業計画が必要になります。
事業は、収入と支出を繰り返しながら進めていきます。現在どれだけの収入があるのか、いつ・どこで支出が発生しているのか。加えて、どのようにして資金を調達していくのか、などを正確に把握することが大切です。
難しく感じるかもしれませんが、これは一般家庭における家計管理と同様に考えることができます。
家計管理をする際、どのような点に着目するでしょうか。給与や副業などでどれだけ毎月の収入が得られているのか、食品、日用品などどのような費目でどれだけの支出が発生しているのかなどを詳細に確認するでしょう。
そのうえで、今の収支が健全な状態かどうかを判断し、収入を増やすのか、支出を減らすのか、などの方針を決めていくことになります。
起業する段階では、実績がまだ存在しないため計画のみとなりますが、考え方は同様です。どこで売上を出し、足りない場合はどこから調達するのか。そして事業を進める上で何にどれだけの支出が発生するのか。これらをできる限り詳細に挙げていくことがとても大切です。
もちろん計画なので、実際に運用していく中で修正は必要ですが、計画修正の必要性を判断するためにも、具体的な計画を作成することが重要です。
お金があれば、できることも増えていきます。最初は思うように資金が準備できず、苦しい時もあると思います。そんな時、ここまで来れば大丈夫だと判断できる材料になるのが資金計画です。
作成には時間もかかると思いますが、あきらめずにしっかりとした計画を作っていきましょう。
4つめは、人脈、コミュニケーションスキルです。
全国の個人事業主や経営者100人に対して行った「起業するなら身に付けるべきスキルは?」のアンケートによると、最も多くの票を得られたのがコミュニケーションスキルでした。
自らの力で、製品・サービスの良さを売り込み、業界によらず多くの人々とつながりを持ち、自身のネットワークを広げていくことが重要と捉えているようです。
どのような仕事を進めるにせよ、自分一人で成り立つものはありません。ある特定の分野については、自身のスキルを最大限活用していくこともできます。
一方、専門外の領域については、自身で調べることも大切ですが、あまり時間をかけすぎてしまうのも問題です。そのような時は、その分野に精通した人々に助けてもらうという判断も必要です。
事業を展開していくうえでは、ビジネスパートナー、顧客、アドバイザーなど多くの人々と関わることでしょう。起業当初は、自分一人がすべてを担当することが多いと思いますが、規模が大きくなると従業員を雇うことも出てきます。
誰かに仕事を依頼する場合、自分一人で進める場合と異なり、いつまでにどのような状態にしてもらいたいのか、依頼する側からの明確な指示が求められます。
そのような場合に、コミュニケーションスキルは非常に重要な意味を持ちます。
コミュニケーションの形態も、時代とともに大きく変化しました。
一昔前は、足を使って精力的に動き回り、直接会って話すなど対面でのコミュニケーションが基本であったため、ある程度はその場の空気感や言葉のニュアンスなどに助けられていた部分もありました。
しかし現在は、インターネットなどIT技術の世界的な普及により、オンラインをはじめチャットなどのテキストコミュニケーションも増えました。
実際私も自宅で作業をすることがほとんどで、仕事上でかかわりのある方々とコミュニケーションを取る場合は、テキストでのやり取りが必須です。チャット上で業務依頼が行われたりもします。
そのため、今後はよりテキストコミュニケーションの重要性が高まっていくと考えられます。しかしながら、文章に対する捉え方は人それぞれです。誰でも誤解なく理解できるような文章作りを心がけ、丁寧な対応をすることが必要になるでしょう。
また、ビジネスパートナーに対しても、SNSやチャットツールなどを活用して連絡を取り、自身の状況を適切に伝え、そのうえで課題解決への協力を仰ぐ。そのようなコミュニケーションスキルが求められていくのかもしれません。
そのような時、1つめに挙げたビジョン、ミッション、バリューを盛り込むことをおすすめします。あなたが展開する事業に対して共感を得られれば、周囲からの賛同を受けられやすくなるためです。
その結果、事業の成功に向けた様々な支援やアドバイスを受けることができるようになるかもしれません。積極的に発信していくことをおすすめします。
最後のパートでも少し触れましたが、本記事で紹介した要素は単独で成り立っているわけではありません。様々な場面で、複雑に関連しあいながら事業の成長に寄与してくれることでしょう。綿密な計画を立て、世の中から求められるミッションを理解し、ビジョンに基づいて事業を遂行し、世の中へバリューを提供する。それだけでも、あなたの事業は成長へと進んでいけるでしょう。
そして、本記事でご紹介してきた内容以外に、事業の成長を後押ししてくれるものがあります。それが、熱意です。世の中を良くしようと考え、一生懸命に活動している人を見ると、誰しも応援したくなるものです。ここでご紹介したスキルを身に付け、あなたなりの熱意をもって事業を進めることができれば、成功へのスピードはさらに加速していきます。勇気を出して、起業家としての一歩を踏み出していきましょう。